木造2階建住宅「花屋敷の家」は、宝塚の高台の中腹の閑静な住宅地にある。街並みへの眺望が得られる一方、周囲からの視線が集中する立地である。そこで、視線を遮るために、スリットがいくつか設けられた抽象的な白い箱のような住まいとした。大きな壁面には木々や街の表情を影として投影し、スリットからは中の気配を感じさせる。
ファサードの3面には直接窓を設けず、外部と内部の境に「光箱」と呼ぶ複数の緩衝領域を設けることで、内部空間に光の気配のようなものを現出させている。内部は柔和で穏やかな光で満たされた空間となっている。
また、住空間の中央に建てられた2層分の高さの1枚の赤い塗り壁が、溝のような吹抜を介しながら、内部空間を大きく仕切る。赤壁を回り込み、もしくは仰ぎ見、覗き込むことで、次の空間を感じさせ、また同時に全体を知覚する。そして、廊下や階段という通過動線を含めた建築全体は、シームレスに繋がり、日々の光の移り変わりによりダイナミックに表情を変える。
キューブに設けられたスリットは、内部空間においては坪庭やデッキスペースとなる。「光箱」による光の気配は、スリットから取り込まれる空や緑、風、街の風景とあいまって、濃密で心地の良い時間と空間を醸成する。 |